昨年改装された松浦魚市場だが、松浦魚市開場以来36年、職員の方の胃袋をつかんできた「魚市食堂」も、新装オープンした。 そんな「魚市食堂」でも自慢のメニューは「アジフライ」、おかみさんの坂本義江さんに、お店のこだわりについてお話を伺った。
必ず松浦魚市で水揚された、1箱70-80尾入り(200~300g)くらいのぶ厚いアジをノンフローズン(1度も凍結せず調理する)で使っています。美味しく食べてもらうためには厚みが重要で、これ以上小さい魚は扱えません。そのため欠品になってしまう日もあり、遠くからお客さんが来たときは申し訳ないときもありますが、このこだわりでやっているからこそ、他の地域では出せない美味しいアジフライを提供出来ていると思います。
松浦の魚がどんなに高くなっても絶対650円でお出ししています。これまで1度だけ、消費税が出来たときに値上げさせて頂きましたが、それ以降20年以上、650円でお出ししています。本当に魚価が上がったときはほとんど赤字ですが、遠くから来たお客さんや、いつも来てくれている常連さんを喜ばせるためにも、歯を食いしばって価格は据え置いています。
アジフライはもともと「家庭料理」で、昔は子供たちがおやつ代わりに食べていた「身近なもの」です。そんな想いもあるので、食べやすい料金でおなか一杯になって欲しいという気持ちがあって、価格にもこだわってお出ししています。
家庭料理であるアジフライだからこそ、作り方は昔から変わらない「普通」の作り方で、骨を抜いて、少し塩コショウつけて、パン粉をつけるだけです。タルタルソースも手作りですが、作り方は昔から全く変えていませんし、逆に材料をケチることもしません。だからこそお客さんに信頼され、安心して変わらない味で食べてもらっていると思います。
やっぱり市場の食堂だから、刺身定食は市場の魚しか使いません。基本は4種類の盛り合わせですが、魚が入るときは太刀魚もイカもカツオのタタキも何もかも入って6種類になることもあります。逆にアジしかない、っていう日もありますが、そういう日は板長(料理長)のこだわりで、1品アジフライ等をつけています。このお刺身定食を800円でお出しています。
私は、「昼食は、1,000円以上はありえない」と思っています。だからアジフライ定食や刺身定食だけじゃなく、全てのメニューが1,000円以下で、それでおなか一杯になってこそ、喜んでいただけるお店だと思っています。
また市場の中のいろんな方が協力してくれて、本当に良いお魚が揃います。アジフライにしても刺身にしても、そういった協力もあって、本当に満足して頂けるメニューになっていますが、それはここで30年以上やってきたお店だからこそできることだと思います。
現在、市場も変わりつつあって、開かれた市場となっていく流れの中で、食堂が外から来てくれた方へのおもてなしの場としても期待されているところもあります。「午前2時に家を出発してきました」ってお客さんもいますので、そういう方にはやはりおなか一杯になって喜んで頂きたいと、気合が入ります。
ただ、もともと私たちは松浦魚市で働く人夫さん(職員さん)のご飯を提供してきたので、そういった市場内の人たちが、おなか一杯になって帰ってもらう場所でもありつづけたいと思っています。そのためお店が満員で入れない方が買えるように、500円の弁当も販売している他、新建屋に来てからは、メンバーも少し増やしています。
いつも言っていますが、感謝の一言です。30年以上こうやって大きく利益もつかない商売を続けられているのも、周りの皆さんのおかげだと思います。お客さんもそうだし、市場内の人からいろんな協力をしてもらってここまでやってこられました。本当にありがたいことです。
最初、この職場に来て、年配の方がたくさん働かれているのを見たとき、「自分もそこまで働ないといけないのか?」と正直思いましたが、働き始めて10年くらいしたときに、その年代まで働けることのすばらしさに気づきました。そうやって年配の方が若い人がなりにくい産業を支えていると気づき、自分も働けるまで働いて、その感謝の気持ちを乗せて恩返ししようと思うようになりました。
そんな中で、年配のお客さんに「かあちゃんの声聞きに来たよー」と言われると、「私が元気でがんばらんば」という気持ちになります。みなさんに、ご飯だけでなく、ちょっと喋って、「よしまた頑張ろう」って思ってもらいたいと、今もがんばっています。